鬱と吐き気

何日目になるだろうか。

少しでも物を食べると、恒常的に吐き気に襲われるようになった。(幸い、まだ本当に吐き出すという事はないようである)

 

それを恐れて何も食べないでいると、ある瞬間から突然、健康然とした空腹を覚えるようになり、「これなら行ける、大丈夫だ!」と、食事を始める。それが少量なら問題なく喉を通り、胃に溜まってくれるのだが、ある一定の量を超えると、途端に先程までと同じ嘔吐感を覚え、それっきり箸が進まなくなる。

 

医者は、「もしかしたら飲んでいる鬱の薬の副作用かもしれないね」と言った。そうして、俺に胃薬を勧めてくれた。それは自律支援が効いたためとても安価であり、ひとまずこれで安心と、俺はホッと胸を撫で下ろした。

 

だが、薬を飲み始めて5日経った今でも、効果はまったく現れてくれない。俺は焦る。こんな風にご飯が食べられなくなった経験は、人生で初めてだからだ。いきなりだが、「東京喰種」というマンガはご存知だろうか。この主人公、金木研は、ある日突然人喰いの化け物に体質を変えられてしまい、その影響として人間の食べ物を食べられなくなってしまうのだ。俺は最近、スーパーのお惣菜コーナーに行く用事があったが、やはりそこでも食べ物を見るだけで吐き気を覚えてしまった。参った。これじゃマンガだ。

 

 

 

また、だからと言って、新しい医者に行くことも出来ない。僕の住む街には精神科の他には信用のおけないと評判の、しがない町医者しか居なかったし、なにより僕がうつ病で大きく体調を崩して、1日の殆どの時間を眠って過ごしてしまう。起きている時間も殆ど吐き気と鬱で気分が優れず、とても診断書を貰ってまで遠くの街の大きな医者に行く気分にはなれなかった。

 

あの意地の悪い、こちらの話を聞いていないかのような産業医との面談は、もう間近に迫っていた。前回も吐き気のことについて話したが、「そんな事はいいから、早く体調を治して、会社に復帰するように」と彼は言っていた。俺は彼に、果たして何を相談すれば良かっただろうか。ともすると、もう彼が何を言ってもそのような答えしか発さないことを予見して、最近の流行りの映画のこととか、セ・リーグの激しい首位争いの話でもすれば良かっただろうか。俺は、暗い気持ちになる。

 

最近発見したことがある。それは、この吐き気は、うつ病同様、眠っていればある程度症状が緩和されてくれるという事だ。もしかしたら、うつと吐き気には、何らかの関わり合いがあるかもしれない。が、今の僕には先に書いたようにそれを確かめる術が無かったし、なによりもし、この吐き気がメンタルから来るものであれば、もしかしたら治療に時間がかかるかもしれない。そのことがただ怖い。友人と楽しく会食がしたい、彼らと思いっきり笑いたい。1人で散歩をするついでに、どこかオシャレなカフェにでも寄って、ケーキセットを注文したい。だが、現状で俺は、ただ吐き気に襲われるだけに甘んじている。はやく病院に行かなければ。はやく生活を取り戻さねば。