ひたすらpixivでAI生成の立花響を眺めている
タイトルからしてもう、さびしくてキツい
そんな感じの毎日
炎上案件をおさめた(と自称している)おれは、(やっぱりうっすらと事前に理解していた事ではあるが)任を解かれ、そのままスッポリと、よく分からない、実験なのか、飲み会のノリで作られたのか、悪ふざけみたいな部署に、気づいたら移されていた。
体制は、
・室長
・ベテランのおじいちゃん
・おれ
の3名。
最初おれは、秘密裏の仕事を任されるのか!とか、バカな事を考えていた。
しかし、結論を言うと、この部署は、あんまし、上手く回ってなかった。室長もおじいちゃんもやる気を無くしていて、もう、何が何だかわからん。
島流しにされたかなー、とか寂しく考えていた折、ありがたい事に次の転職先も決まり、まあ、給料落ちなければそっち行こうかな、どうしようかなー、みたいな感じ。
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そんなわけで俺は、ささやかな、うらぶれた落日を手にし、日がなpixivで生成AIの絵を眺めていた。
あんなキャラやこんなキャラの、裸体が、比較的簡単にポンポン手に入る、良いんだか、悪いんだか、よくない時代に、なってしまっていたんだ。
大学の頃、先輩がポツッと、『だってさあ、pixivの絵ってみんな汚くねえ?見る気しないだろ』と言いやがった事がある。
汚い絵。それはそう。だから味があっていいだろ、とか、描いてる人のこと考えろよ、とか、そうした反論は思いつかなかった。露悪的だが確かに、シコりみが少ないという、真理を捉えていたからかもしれない。
だが、今このpixivを見て、どうだろう?生成AIの絵は無機質だけど、あまりに流麗だ。シコるくらいには丁度いいし、なんだったら、寂しい時はこれを見ても中々慰められるくらいだ。俺は汚かった絵が、偶に、ごく偶に懐かしくなるけど、そんな懐かしさも消し飛ぶくらい、遥かに全てがキレイ化された時代。
一昔前、AIが、人間に対して反乱を起こすという、何かそう言った内容の作品は、それこそ沢山あった。
だが、どうだ。この咲き乱れんばかりの、AI祭りは。誰もがchatGPTにスマホで話しかけている。AIで動画を作ってニコニコの再生数をぶっちぎる。そして俺は寂しい夜に、存在しない、人形の、しかし、精巧なキャラクタ達を観る。今日は誰との夢を見ようか。乱作された欲得に、煌びやかな街が映える現代は、しかし、それが虚飾であるという一点すら忘れてしまえば、なんでもかんでも夢が叶いたい放題だった。そして、虚飾であることは、案外簡単に忘れてしまえた。
ひょっとしてどうだ、俺は最近思うけれど、AIは反乱なんか起こさないで、寧ろ私たちよりも、親切で丁寧に、社会というものを構成しやしないか。
AIが肉体を持つ。そいつには人間の親切さしか学習させない。そいつが人間の子供をつくる。親切な子供を。そいつらが寄り集まって、今では殆ど不親切が無い社会。どうだ、真のディストピアを作り出していたのは俺たち人間の方で、より善性に優れていた函数たちのほうが、良い時代を作り上げた。めでたしめでたし。いや、ある意味でそうか、『人間よりも理想的な人間である』ことは、人間への最大の反乱かもしれないな。うわごとを、俺は繰り返す。
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仕事で生成AIの環境に触った。と言っても、無料で触れるデモ程度のものだが。俺は驚いた。こいつら(LLM)は、『もう既に膨大なデータを学習済みだから、ちょっとやそっとのナレッジを与えれば、それっぽい回答を作れる』のだ。転移学習すら必要なかった。プロンプトっていうものに置き換わり、AIエンジニアの仕事はもう、あんまりなくなったかもしれないと、転職中に風の噂で伝わってきた。
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時間は余りにも速すぎる。誰もが追いつけないようにすら見える。
部署のおじいちゃんと最後に話した。
『昔は一つの機能を一週間はかけて作っていた。今ではもう、三日くらいのスケジュールで作る。この会社はそれが普通で、人間らしい生活ができるとは言えない』
嗚呼。そうだ、そうかもしれない。分かってるよ。だから役員さんは、わたしを、この部署によこしたのだろ。『君は速い』。そう言われて嬉しかったっけ。結局話したのはあれが最後か。この人だけで、果たして組織がもつのかなあ。案外もつのかもしれない。俺はコマに過ぎないけれど、コマも注ぎ込めば速さも大して変わらないかも。そんな事を考えながら。
おじいちゃん、この組織で、俺と一緒で、居場所は無かっただろうな。可哀想に。でもさ、こんな時代だから仕方ないよね。そんな風に俺は思った。防空壕なんだ。早く走っても、トロく走っても、爆撃されて死ぬのはきっと同じだよね
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まばゆいばかりの街。街がただあった。食うものは旨くなって、友達とも偶に遊んで、親ともゆっくりした時間を過ごせて、なんだかそんな。
街。俺の街では最近、人が殺された。殺された方は、バカ高い金をふんだくって、返済しなかったらしい。色んな憶測がネットに飛んでいた。
綺麗。綺麗な街。綺麗な絵。うらぶれたぼくたち。速さ。ついていけないほどの速さ。それを、感じることしかできない、おれ。指針も自信も無い明日。迷路町に占い師も居ない。
AIで描かれた立花響に話しかける。『おれは、何か一つでも、分かってから、死ねるだろうか』。響は、やる気のない室長と同じ言葉を、しかし、AI特有の優しさで俺に言う。『その事は忘れて、ゆっくり休もう』。
明日は日曜日だ。どこかに出かけようか。ぐったりしていようか。でも、いくら親切な響の言葉であっても、今の悔しさだけは、忘れたくないから、明日もしきりに思い出してイラつきたい。しきりに思い出してショゲたい。親切なAIに取って代わられて良い。ダメな俺が散々ぱら見る、ダメな景色を、最後まで見たいでしょ。そう啖呵切ってみたら、響は悲しそうに俯いた。親切だな、なんだかそんな風に思った。