チノちゃんと散歩2

暑い季節は続く。

陽の光は天の寛大さを感じるまでに強く、地上のあらゆるものに明度を与えていた。

 

そんな中、俺とチノちゃんは次の街を目指して、もう1時間半は歩いていた。当然二人とも汗びっしょりで、限界といった面持ちをしていた。

 

なぜこんなことになったのだろう。今となっては具体的に思い出せないが、前回公園を散歩デートしたことに味を占め、じゃあ次は街から街へ徒歩で移動してみよう!という流れになったのではなかったか。なぜ、チノちゃんも俺も「暑いから電車を使いましょう」という意見を出さなかったのか。今となってはまったくもって不明だ。

 

俺たちはうだる暑さの中を懸命に歩いていた。高速道路を中心に置いた、小綺麗な道のりは、歩いていて中々に心地よいものだったが、中には粗大ゴミが大量に不法投棄されている空き地などがあり、俺たちをギョッとさせる。まるでその場所だけ他の土地の写真を継ぎ接(は)ぎしたようなアンバランスさがあったのだ。

 

俺たちはさらに懸命に歩いていた。道の中央を走る高速道路は長く、終わりが無いようで、俺たちはこれに沿って歩いているうちに、どこかとんでもなく遠くに連れていかれてしまうのではないかと心配になった。歩いても、歩いても、風景は目まぐるしく変われどどこを終わりとして良いのか分からない散歩は、夏の季節と相まって、残酷なトレーニングにような情景を醸し出していた。

 

「もうどこでもいいから、涼しい喫茶店に入って、冷たい飲み物をのみたい」俺とチノちゃんが切実にそう思った頃だった。おや、なんと坂道の下に、一軒のパンケーキ屋さんがあるではないか。俺たちは、まるで塹壕に逃げ込む負傷兵のようなほうぼうの体(てい)で店に転がり込むと、早速アイスコーヒーとアイスクリーム付きパンケーキを注文した。そして冷を取るためにコーヒーをがぶ飲みし、アイスクリームを速攻で片付けた後、余裕が出たのでパンケーキは味わって食べた。ふんわりとした生地の、まことに美味な仕上がりだった。

 

十分に体をクールダウンさせてから、俺たちは店を出て、再び目的の街へと歩きはじめた。地図の上では、あともう少しのはずだ。今まで直進するのみだった道を右手に折れ、終わりのないように思えた高速道路とお別れをすると、そこは見えてきた。流麗かつ荘厳な建物が並び、人通りは極端に少なく、警備の人間がにこやかながら頼もしく門番をしている。この国の政治が行われる場所だった。

 

辺りを興味深げにうろうろしていると、再び喉が渇いてきたので、俺たちはたまたま見つけた、普通のコンビニよりちょっと高級な品並びをしたミニスーパーに入った。そこには瓶のレモネードが売られていたので、これはいい、気が利いているじゃあないかと満足し、それを店の中のイートインの席で2人して飲んだ。レモンがちょっと暴力的なほど強く、半分は残してバックの中に入れた。

 

幸いにもミニスーパーのすぐそばに駅があり、その日の合計で2時間とちょっとを歩ききっていた俺たちは、足が棒切れになった状態で電車に乗り込んだ。俺は思わず「今日のおでかけは、ちょっと失敗だったかな?」とチノちゃんに漏らしてしまった。彼女は、「まったくです」とちょっと怒って見せてから、「でも、たまには歩いて行くのもいいですね」と笑ってくれた。取り繕うことのない答えが、俺の胸を心地よくする。

 

電車の中は比較的混んでいたが、冷房が効いていて、大変に心地いい。ふと、前の席に座っていた子供が電車の動きに連動してはしゃぎはじめた。お母さんは少し怒った表情をしてそれをたしなめていた。俺たちは顔を見合わせて、少し笑った。夏は、まだまだ続いてゆく。