友人の体が1.5倍に膨張した。
これは、誇張では、ない。
全身が均一に膨れ上がったその姿からは、雄々しさすら、感じられた。
特に、注目すべきは、腕だ。
どう考えても、アームレスリングをしたら、彼に、体ごと吹き飛ばされそうな、そんな威圧感を醸し出している。
スポーツ部の友人は少なかったが、しかし、これほどまでに見事な、青々とした木から切り出した丸太のような腕を、俺は見たことがなかった。
曰く、太ってしまったらしい
だが、通常、太るという事象は、腹が出て、良くて顔などがむくれる程度だろう。
違う。
彼はまるでボディ・ビルダー、あるあるいはパワード・スーツを着込んだ近未来兵士のようにその肉体を変容させていたのだ。
驚いた俺は思わず尋ねる。
「スポーツか何かやってらっしゃいましたっけ?」
彼も、困り顔で、最近よくラグビー部に間違われると言う。
しかし、これと言って運動などは、していないようだった。
俺は焦る。
彼は、遠くから見れば見る程、その大きさが実感された。
まるで、遠近法が壊れてしまったみたいだった。
曰く、彼は酒をよく飲んでいたらしい。
この前など、1.1リットルのビールを、一人で飲んだのだと、豪語していた。
今日も、俺が紹介したイタリアンで、美味そうにサングリアを、飲んでいた。
更に、俺が胃痛で食べきれなかった料理を、半分平らげてくれた。
お金は、折半した。
俺は、彼に感謝した。
他愛ない話を沢山した。最近の仕事のこと、僕の体調のこと、そいつはアイドルマスターのライブが好きで、よく足を運んでいたから、その話もした。
だが、ふいに彼の、天然の殺人マシーンのような肉体に、意識がいってしまう。
俺は、会話の途中でたまらず、「高校野球や相撲のように、体を大きくする為に大量に食べているのか」と聞いてしまった。
彼は、そうではない、と言う。
だが、今俺の隣に居るのは、まぎれもなく戦いのための力を手に入れた男だった。
頼もしさが、半端では、ない。
俺たちは、用事を済ませたのち、秋葉原UDXの階段に腰を下ろし、今までして来たような雑談をひとしきりした後、地下鉄に乗ってそれぞれの帰路についた。
だが、彼のシルエットは、今でも、頭から離れない。
ともすると夢に出てきそうだ。
彼は、これからどうなるのだろうか。
鍛えさえすれば、その恵まれた肉体は本物のボディ・ビルダーになってさえしまえるかもしれない。
また、これから更に、体が大きくなるようであれば、それはもう、遠近感の消失だけでは済まない、体格の、破壊であろう。
俺は、失礼ながら、彼の肉体がどこまで進化するのかが、楽しみで仕方がない。
もし、あの遠くに見えるビルほどになったら、肩に乗せて、歩いてもらおうと思う。