海とチノちゃん

チノちゃんの青い髪が、渚に揺れた。俺はその瞬間を見逃さず、両の手で枠を作り、現像する事のないカメラで彼女の瞬間を切り取った

 

夏−俺とチノちゃんは海に来ていた。暑い砂浜は俺たちの目を、皮膚を、髪を容赦なく焼いたが、青い空と海の誘起する開放感は、いっそ俺たちに涼しさを与えるようだった

 

先ずは古びた機材から垂れ流されるシャワーを浴びた後、俺たちは浅瀬に浸かった。すました顔で水に浮いているチノちゃんに、おもいっきり海水を頭からかけてると、やっこさん、浮き輪からひっくり返って、ドボンと音を立てて沈んだ。怒るチノちゃん。あまりに楽しいひと時だった

 

それから海の家で焼きそばとカレーを頬張った。その味は実に手作り感が出ていて、お世辞にも美味いとは言えなかったが、それでも彼女は笑っていた

 

日も傾き始め、もうひと泳ぎしてから帰ろうと決めたその時、チノちゃんが海の中で、柄にもなく、胸を俺に当てる形でひっついてきた。だが、彼女の膨らみは全くと行っていいほど感じられず、勇気を出して誘惑してくれた彼女には悪いが、俺は盛大に笑ってしまった。不機嫌になるチノちゃん。後で機嫌を治してもらうのが大変だった

 

帰りの電車の中、楽しい時間の終わりは、もうすぐそこまで来ていた。明日から彼女も友達と遊ぶ約束をしているだろうし、俺も俺でやる事があるから。其々の日々が点で交わり、やがてまた別れていく岐路。しかし、俺はちっとも寂しくなかった。電車の座席、眠るチノちゃんの隣で、「次もまた来よう」、そう独り言のように呟いてみる。夏は、まだ始まったばかりだ。明日は何処へ行けるかなあ