チノちゃんとパフェ

甘いものが食べたい

 

何を隠そう、俺はケーキとか、アイスとか、そういった乙女を形作る成分たちが大好きなのだった。そこの貴方、笑うんじゃあない。たしかに俺はいわゆる、弱者男性の代表格って奴だ。その上、最近の漫画の主人公によくある、フェミニンな可愛らしさなんてものから5光年離れている。不精ヒゲなんか生やした日には、むさ苦しさで鏡を見るのも躊躇われる。そんな俺が店に行って、女子供と一緒の空間で甘いものを食べる。何やらそれだけで犯罪になるような気がしたが、それはそれ。俺にだってしたい事をする権利がある。

 

そんな訳で、チノちゃんを誘ってみたんだ。彼女は最初、「そんなに甘いものが食べたいなら、ウチのケーキを買えば良いじゃないですか」と冷めた表情をしていた。俺は、「分かってないな?今は夏。アイスとパフェのおいしい季節、チノちゃんはこんなに素晴らしい時期をフイにしてしまうのかい?残念だな」と言うと、まんまと乗っかってきてくれた。まあ、正直に言えば、一人だけでお洒落なパフェの店に行くのが躊躇われた、という理由で彼女を誘った感もあるのだけど。

 

そうして俺たちは、大きな駅に直結する、大きな百貨店の中のフルーツパーラーに入ったのだった。俺が頼んだのはミックスフルーツパフェ、チノちゃんが頼んだのはピーチパフェだ。それらは、乗っているフルーツもさることながら、実に多種多様なフルーツクリームベースのアイスクリームから構成されており、俺は思わず舌鼓を打ってしまう。一口食べると、サッと汗が引くと同時に、洋館の豪奢な造りそのものを味わっているかのような錯覚が俺に訪れる。

 

ああ、なんて幸せなんだ。俺が早々とスプーンを進めていると、チノちゃんが目線で俺を咎めて言う。「ちょっと、そっちのパフェ、半分残しておいてくださいよ。あとで交換しようと思ってたんですから…」そうプイッと頬を膨らませる。俺は思わず、ごめんごめんと言いながら笑ってしまう。そして、「ほら、チノちゃん、あーん」と、ミックス・フルーツ・パフェを一掬いしたのち、そのスプーンをチノちゃんの可愛いお口めがけて差し出した。チノちゃんは顔を赤くして、「いりません!そんなの!」とプリプリ怒っていた。