平衡感覚が無いまま茶菓子屋に入った

一時期絶対的な猛威を振るい、1日の活動時間をわずか5時間程度にまで狭めたうつ病も、14万という高額医療費と引き換えになんとかその勢力を畳んでくれた。

 

しかし、それは即ち、1日8時間フルタイムの労働が可能になったと言うわけでは決してなく、鬱の代表的症状である睡眠時間の過多と慢性的な疲労感は、未だ平日の日が高いうちから現れては、僕の復職を阻んでいた。

 

と、まあ、表現技法盛り盛りでうざったく書いてみたが、要するに鬱はまだ治ってませんというだけの話なのだが。

 

もう表れた症状を逐一書いていくのもめんどいので、代表的なものを挙げると、平衡感覚がおかしくなっているので困っている。

 

特に階段が辛い。一段一段降りる度に、足を滑らせて落っこちやしないかとヒヤヒヤする。

 

平衡感覚というか、より厳密に言うと、奥行きの感覚が掴めなくなっている。3次元がy方向にぶれぶれになるのだ。こわい。こまる。

 

 

 

で、そんな中で外をほっつき歩くもんだから、危ないったらありゃしない。だけど、仕方ないんだ。この病気には散歩が効くと言われてるんだ。外に出なきゃいいとか言わないでくれ。

 

今日の散歩は、デカいビルが立ち並んだ道沿いにひたすら歩いて行くコースだった。

 

デカいビルのひとつひとつは、見目も綺麗に作られており、それらが立ち並んだ姿は確かに気持ちを幾ばくか高揚させるのだが、それも長く(1時間半くらい?)歩いていると飽きる。足が辛い。

 

 

 

と言うわけで、僕は疲れた足を休ませるべく、一軒の喫茶店?に寄った。

 

 

いや、ここを喫茶店と言うべきか。内装は何だか異様な程に和風で、飲み物も、コーヒーの代わりに緑茶なんかを出している。

 

そのくせ、緑茶とのセット価格でアイスクリームなんかを出しているもんだから、僕は益々、ここがどんな店なのか混乱してしまう。

 

僕はとりあえず、その甘味と緑地のセットを女主人?にたのむ。

 

と、外からひょっこりと菓子職人のおじいさんがやって来て、まるで能の面のような顔でニタニタ笑いながら、何か細かな作業を始めるのであった。

 

僕はたかだかアイスクリームを出すのに、そんな作業量が要るのかと、ちょっと訝しんでしまう。

 

 

 

 

ややあって、アイスクリームは出てきた。それも、2種類も。季節のフルーツの盛り合わせと共に。

 

 

僕は狼狽する。

 

今僕の目の前にあるそれは、明らかにサービス過剰とも言える盛り・彩りであり、したがって僕は甘味とお茶セットの値段を間違えたのかと勘違いしてしまったのだ。

 

ややあって、先ずは胡麻ペーストのアイスクリームを口に運ぶ。

 

 

 

 

しぬほどうまい

 

 

 

 

 

うまーーーい!

 

 

 

もうその時のことを思い出すだけで、僕のIQは2ぐらいになってしまう。

 

 

とにかく美味い。美味い。

 

 

やったあ!って感じ。

 

 

続けてジンジャーペーストのアイスクリームを食べる。

 

 

 

 

 

うまーーーい!!!!!

 

 

 

フルーツの盛り合わせを食べる

 

 

 

うままい!!うまーーーい!

 

 

いや、僕はなにも、味についてレビューするのが面倒になったわけじゃないんだ。

 

ただもう、このアイスクリーム達を、美味いとしか形容できないんだ。

 

 

まるで夢を見ていたかのようだった。

 

 

いや、ひょっとすると、自分は薬でトリップしてただけで、本当に夢を見ていたかのではないのだろうか。

 

 

お店の女主人?と菓子職人のおじいさんに、しこたま「美味しかったです!」と言ってから、店を後にした。

 

 

 

僕はもうこの上なく幸せになってしまい、「食事、睡眠、アリナミン♪」と、アリナミンのCMソングを小さく歌い始めてしまった。

 

周りをよく見ていなかったから、その状態で道の段差に足引っ掛けて、コケそうになった。

 

 

 

以上!